「伊藤まさこさんのてくてくまつもと」 レポート
2009年5月17日松本市立博物館講堂で料理・雑貨スタイリストの伊藤まさこさんによる松本の魅力、ものづくりなどのお話がありました。
写真左から古書店店主の柳沢さん、伊藤まさこさん、博物館学芸員の窪田さん。
地方新聞のイベント情報には定員30人と書かれていましたが、60人以上の方がいました。9割以上が女性でした。この機会に初めて博物館に来た方もいました。
伊藤さんは大勢の前で話をするのは初めてで緊張している様子でした。1時間30分にわたるトークは、ナワテ通りで古書店を経営されている柳沢さんとの対談形式で進みました。
伊藤さんは横浜出身で、松本に住み始めたのは3年前。松本に始めて来た時の感想は「すごくいい。好きな街。ここで子育てがしたい。」と思ったそうです。
松本の人についての印象は、「のんびりしている」。それまでスピード感のある生活をしていたので、松本の速度に合わせるのに戸惑っていたようです。「“今度まで”がすごく長く、全く進んでいない状況に驚いていましたが、松本のスピードにやっと慣れて来ました。松本の人は急接近して来ませんが、ちょっとずつ近付いて友達になれます。一年目は慣れるのに必死でした。冬が長いのに飽きることもありました。2年目は知り合いが増え、3年目は充実してきました。」
伊藤さんがモノを選ぶときの基準は、「欲しいか欲しくないか」。あまり考えずに買うそうです。失敗したこともある経験から、「ちゃんと作っている人のモノは長く使える」ことがわかったそうです。「暮らしが基本。暮らしを豊かにするのが道具だと思います。松本は身の回りで作られているのが魅力です。」伊藤さんがとても気に入っていたみすず細工の製作者の中澤今朝源さんが2月に亡くなり、中澤さんが居なくなってしまったのが悲しいのはもちろんですが、後継者がいなかったので松本のみすず細工自体もなくなってしまったのも悲しかったそうです。「みすず細工」とは割竹を編んで作る生活用品(行李やざる・かごなど)のことです。
松本の藍染染織家の浜さんには、松本の伝統行事の七夕人形の着物の生地を作ってもらったそうです。
伊藤さんは、食器を買う時には料理を盛る姿を想像して買うそうです。スーパーなどのお惣菜もお気に入りの器に盛り替える一手間をかけると、食事の時間中幸せな時が流れるとアドバイスしていました。
初めての経験で今回は言いたいことの10分の1も語れなかったと言っていました。「生活はちょっとしたことで楽しくなります。紙面を通じて伝えていきたい。」とのことでしたが、ファンの方々はまたお話を聞きたい様子でした。質問タイムでは、松本でお気に入りのバーは?パン屋さんは?豆腐屋さんは?子供と一緒に行って楽しかった場所は?など次々に質問されていました。
トーク終了後、伊藤さんの著書を持参した方のサイン会になっていました。著書が会場で売られていたわけではありません。そして、サイン会があるとも言われていませんでしたがいつの間にかこのような状況になっていました。人気のほどが伺えます。今回の講演を聴講して、松本にずっと居ながら松本の宝を見逃していたことに気付きました。みすず細工の中澤今朝源さんと共に松本の文化が一つ消えてしまったのかもしれません。窪田さんが言われていた「古いものにも目を向けて、松本の今、将来を考える」ことの大切さを感じました。