常念山脈(中房温泉~燕岳~大天井岳~常念岳~蝶ヶ岳~徳沢)縦走

レベル:
山行日: 2011.07.19
72
標高:燕岳(2,762.9m)大天井岳(2,921.9m)常念岳(2,857m)蝶ヶ岳(2,677m)
常念山脈(中房温泉~燕岳~大天井岳~常念岳~蝶ヶ岳~徳沢)縦走

常念山脈とは、北アルプス南部の餓鬼岳、燕岳、大天井岳、常念岳、蝶ヶ岳などからなる山並です。槍ヶ岳・穂高連峰の東に並行するように連なっているため北アルプスの迫力ある眺めを楽しめます。槍ヶ岳や穂高連峰に比べ山稜は穏やかで歩きやすく、山小屋も要所要所にあるため安心して登れます。
今回ご紹介するルートは、中房温泉登山口(標高1450m)から登り燕岳(つばくろだけ 標高2762.9m)、大天井岳(おてんしょうだけ 標高2921.9m)、東天井岳(ひがしてんしょうだけ 標高2814m)、横通岳(よこどおしだけ 標高2767m)、常念岳(じょうねんだけ 標高2857m)、蝶ヶ岳(ちょうがたけ 標高2677m)、長塀山(ながかべやま 標高2564.9m)を経由して上高地の徳沢(標高1562m)に下ります。2泊3日の行程でした。
以前常念岳から蝶ヶ岳方面を見た時にあの道を歩いてみたいなと思っていました。常念岳を横通岳から見たらどんな感じかなと気になっていました。大天井ヒュッテへの道は通ったけど大天荘への道はどんなだろう。一年に一回は燕岳に行きたいな。常念山脈への思いが一気に叶えられる縦走でした。

アクセス

中房温泉登山口までのアクセスについては燕山荘のホームページ(アクセス)に詳しく書かれています。
今回私が実行した交通手段
<行き>
マイカーで松本を出発し、穂高駅近くの無料駐車場に車を停めました。ここから中房温泉行きの乗合バスを利用して登山口まで行くつもりだったのですが、運良くタクシーが止まっていて、他のお客様と乗り合わせてバスよりも早く行くことが出来ました。
中房温泉は登山者と思われる車が道沿いにずら~っと路上駐車されていました。登山口からかなり離れた場所まで車が停められていました。乗合バスやタクシーを利用したほうが良いと思います。
<帰り>
上高地バスターミナルから新島々(しんしましま)駅行きのバスに乗り、新島々駅から松本駅まで上高地線の電車に乗りました。上高地バスターミナルから松本駅までの交通費は2400円。バスターミナルから新島々駅はバス代1900円、新島々駅から松本駅までは電車代680円なので180円お得です。
松本駅から穂高駅まではJR大糸線で電車代は320円です。穂高駅から駐車場までは徒歩5分くらい。

1日目

中房温泉登山口~燕山荘 4時間10分(小休憩含む)

午前5時20分頃登山開始。
7月の3連休の中日のため登山者が多く、登山口ですぐに歩みが止まってしまいました。この調子だと予定時刻通りに行かないかも~厳しいな~と思っていると、ツアーグループの人たちが道を譲ってくれたので前に進めるようになりました。それでも登山者が多く自分のペースで歩けず疲労を感じていました。私はゆっくり歩くので後ろから近付いて来る人たちに追い抜かしてもらうために何度も足を止めて道を譲りました。
登山口から1時間50分ほど歩き第3ベンチを過ぎると、私よりも速く歩く人たちの波は一段落したようで道を譲るために足を止めることも少なくなりました。しかし気温が高く汗がポタポタと流れるほど暑かったのでこまめに水分を補給するために足を止めました。この日の安曇野市穂高の最高気温は35.1℃でした。
登山口から2時間15分ほど歩いた富士見ベンチを過ぎると下山する人とすれ違うことが多くなりました。山では登り優先なのですがルールを知らない人も多いようで遠慮なく下ってくる姿も目立ちました。その中でちょっと怖いと思った事がありました。小学生の子供連れの家族は子供が先頭で止まらずに下り、親が離れないようにそれに続く傾向がありました。ある一組の家族とすれ違った時、父親のテント泊サイズの大きなリュックが私に当たり私はバランスを崩し少しよろけてしまいました。幸い転がり落ちるような場所ではなかったので良かったのですが、こんな事でも事故が起きる可能性はあると思いました。やまたみ登山学校で「すれ違いを待つときには山側に立つこと」と何度も言われていました。万が一すれ違いの時に接触し巻き込まれても助かる確率が高くなります。子供が下って来たらその後に続く大人に用心しながら登りました。「小熊を見かけたら親熊に気をつけろ!」みたいなもんですかね。ちょっと違いますね。
合戦小屋までの道は登山口付近の坂が25分間くらい辛く感じますが、その後はそれほど大変ではありません。
登山口から合戦小屋まで2時間50分ほどかかり、700㏄ほど水分を摂りました。一度にたくさん水を飲んでも全て吸収されるわけではありません。一度に吸収できる量は30mlだとか聞いたような記憶があります。下山後聞いた東洋医学の話では、一度にたくさんの水を飲むと胃が溺れたと思って吸収を止めてしまうそうです。そして吸収されずに留まった水はジワジワと胃から外に出て脂肪と一緒に体の回りにつくそうです。水腹巻が出来ている人も。
合戦小屋で売られている松本市波田地区のスイカも魅力的でしたが、持って来た味噌とキュウリをパクついて体をシャキッとさせました。合戦小屋で15分ほど休憩。
私は重い荷物を背負うと首から肩が凝ってしまい頭痛になってしまうこともあるので時々首や肩を回して立ち休みをしていました。2泊3日分の荷物を背負っているといつものように足は進みません。下山者とすれ違う時「こんにちは」と声を掛けられるのですが、苦しくて顔も上げられず「コンニチハァ~」と空気が漏れているような声しか出なくなっていました。あ~足が進まない、暑いし苦しいな~と思いながらとぼとぼ歩いていると、大体同じペースで歩いている人に気がつきました。その人はテント泊らしく大きな荷物を背負っている男性でした。追い越したり追い越されたりするうちに特に話をしたわけではないのですが、何となく“一緒に苦しんでるな~”と妙な連帯感を感じていました。
今までに比べて山ガールやちょっと年齢層の高い山ガール風な人を見かけることがかなり多く、山ガールだけのツアーグループも見かけました。若いカップルも増えていました。単独男性に比べてカップルの男性は今までになくファッショナブルです。今まで見慣れていない姿だったので“ひゃ~、どこでそんな服買うんだい?!”と驚きながらなぜかとても笑いたくなってしまいました。山のスタイルは随分変わったな~と今年初めての北アルプスに月日の流れの速さと世間から遠のいている自分に改めて気がつきました。
燕山荘に近付くと三脚を構えて写真を撮っている方がいました。燕山荘の赤沼オーナーでした。「今年はとても花がきれいなんだよ。」と言っていました。坂もゆるやかになり花から元気をもらい、ひとがんばり。


燕山荘~燕岳 往復 50分

燕山荘に到着してリュックを下ろしゆっくりとコーヒーを飲みました。夏山は夕立の心配があるのでゆっくりしている場合ではないのですが、疲れきっていたのでゆったりと時を過ごしリフレッシュしないわけにはいきませんでした。30分近く休憩している間に喫茶室に置いてある本をパラパラめくって見ているとあのモニュメントの由来が書かれているページを見つけました。~~~(畦地梅太郎宅の玄関先にあった山男の石像を見つけ)『欲しそうな私(赤沼淳夫さん)を見て先生は「よかったら持って行ってもいいよ」と言って下さった。』(別冊太陽「山の版画家畦地梅太郎」の中の「畦地作品との出会い」著:赤沼淳夫)~~~あのユニークなモニュメントが畦地梅太郎の作品だと知ってはいたのですが、物欲しそうな顔をしたために燕山荘に来ることになったなんて!一層モニュメントがユニークに見えてきます。
ゆっくりし過ぎてしまったので燕岳に行くのはやめようかと思ったのですが、ここまで来たからには頂上に立ちたいと思い燕岳に行きました。いつも思うのですが白砂の浜辺のような色白の美しい山でコマクサがさらに美しく見えます。リュックを燕山荘の外に置いていったために足の運びがとても良くなっていました。気分も軽く気持ちよく歩いているとすれ違った人が、ハイマツの中にライチョウの親子がいると教えてくれました。写真は撮れませんでしたがカワイイ親子に出会えてラッキーでした。

11時ごろ燕山荘に戻ると外には大勢の人がいました。その後の様子を大天荘で知り合った方に聞いたところ、宿泊の受付に行列が出来ていたそうです。さすが3連休、人気の燕山荘はギュウギュウ詰めだったことでしょう。
燕山荘ではペットボトルの水のほかに持っている容器に水を入れてくれます。1リットル200円でした。

燕山荘~大天荘 3時間35分(小休憩含む)

燕山荘から55分くらい歩くと「大下りの頭」に着きました。ここまでの登山道はゆるやかで稜線歩きを存分に楽しむことができます。槍ヶ岳に向かって歩くような感じで、ずっと北アルプスの山並を見ていられます。
大下りの頭は標高約2660m。ここから約2560mまで下ります。下ってからまた登り返す道が見えていたので、この高低差はもったいないな~と思いながら下りました。ここから先のアップダウンはとてもきつく感じました。尾根の東側に廻りこむとニッコウキスゲやミヤマキンポウゲ、シナノキンバイなどのお花畑が広がっています。稜線にはコマクサやタカネツメクサが咲いています。

比較的軽装の人と何回もすれ違いました。この人達は燕山荘に宿泊して、燕山荘から大天井岳まで日帰りで往復してまた燕山荘に宿泊するようでした。軽快に歩いているのでこんな行程もいいな~と思いました。
途中の登り坂で休憩していると、燕山荘までの登山道で同じテンポで歩いていた男性が抜かして行きました。私は燕山荘付近でかなりゆっくり過ごしていたのですが、この人もそうだったのかな~それとも北燕岳まで行ったのかな~よく歩くな~と勝手に想像し、「きついですね~」と声を掛け合いました。
切通岩に行く手前でお腹が空いたのでおにぎりを食べようと思い腰を下ろして食べる用意をしていると「猿が近付いてますよ」と声を掛けられました。ハイマツの中で松の実を食べている猿の姿を見かけてはいました。猿には餌があるから大丈夫だろうと思い腰を下ろしたのですが、おにぎりを猿に狙われるのは嫌だったので猿がいない場所まで食べるのを我慢することにしました。
切通岩の近くには東鎌尾根の道を作った小林喜作のレリーフがありました。これからあのはしごを上るのか~と思うと余分に動きたくはなく、レリーフの近くには行かずにはしごを下って来る人をじっと待っていました。

切通岩から2分ほどで槍ヶ岳方面と大天井岳方面の分岐に着きます。猿の気配もなくなったので、ここでおにぎりを安心して食べられました。分岐から先は、なかなか足が進みません。ものすごくきつい傾斜ということもないのですが、くたびれているためにガレ場をどうにかこうにかトボトボとちょっとずつ進みました。時々大きな石がゴロゴロしている所もあり歩きにくいのですが、近くにはチングルマの花やタカネヤハズハハコのつぼみがあり目を楽しませてくれます。途中で下りの方とすれ違い「あともう少しですよ」と声を掛けてくれました。山の人が言う「あともう少し」は大抵少しではないことがよくあります。特に下りの人が言うのは全く少しではありません。その言葉をそのまま受け止めて気を抜いてはいけないと思っていたのですが、本当にそこから少し歩いて大天荘が見えた時にはほっとしました。あ~きつかった~。以前燕岳から槍ヶ岳方面に行った時はこの道ではなく、大天井ヒュッテに向かう道でした。その道は坂道ではなかったのですが、岩場を鎖を伝って歩いたのでその時もとても疲れました。あの時も小屋が見えた時は本当にうれしかったものです。宿泊予定の小屋までは何が何でも歩かなければならないので肉体的疲労と精神的な焦りで辛くなってしまうのかもしれません。夏山は夕立も怖いですからね。

燕山荘から先は歩く人が今までよりも少なくなります。熊除けの鈴はつけていたほうが良いと思います。常念岳周辺ではツキノワグマの観察会が行われています。ってことは熊がいるということです。

大天荘~大天井岳  往復20分

午後3時ごろ大天荘に着くと身軽な姿の男性に会釈され、「誰だっけ?」と思いました。ズボンを見て抜きつ抜かれつした同じテンポの男性だとわかりました。今まで私の目には大きなリュックと帽子と特徴のあるズボンしか目に入っていませんでした。お~よくご無事で頑張りましたねと心の中で思い会釈しました。途中でお話をした方々の顔は全く覚えていませんでした。疲れていて人の顔に対して集中力も記憶力もありませんでした。リュックと帽子、着ている服の色ばかり見ていたので山小屋で身軽になってしまうと全くわからなくなっていました。
大天荘でそのまま寝てしまいたかったのですが、以前燕山荘に宿泊した時に高山病を予防するためにすぐに寝てはいけないと教えていただいたので寝るのを我慢しました。一息入れて体力と気力が回復してから大天井岳に登りました。チングルマやイワカガミが咲くステキな登山道です。

まだ午後3時30分頃でしたが涼しくて気持ちよく頂上でボ~っと眺めていたらいつの間にか居眠りしていました。

大天荘

夕食は午後5時からでした。魚か肉のどちらかを選べます。私は魚にしました。サバの味噌煮もおいしかったです。肉は大きなハンバーグでした。
明日の日の出は、午前4時40分ごろ。夕食後6時50分からテレビで天気予報が見られるとスタッフの方が教えてくれました。北アルプスの明日の天気はどの山も曇り後雨又は雷雨でした。雷は絶対に避けたかったので翌朝は出来る限り早く出発しようと思いました。
夕焼けを楽しみにしていたのですが、ガスが巻いてしまい見られませんでした。夜中に目が覚めた時に外を見ると月がほぼ満月で明るく、星は思っていたほど見られませんでした。明日の日の出が楽しみだな~と思いながら眠りにつきました。
大天荘の水は、汲み上げた沢の水と雨水の混合で薬品で殺菌しています。それを無料で分けてくれるのですが、臭いが気になる方はペットボトルの水を買うことが出来ます。500ml200円、2リットル500円。ちなみに登山口から大天荘に来るまでに飲んだ水分の量は2.3リットルくらいでした。
3連休の中日でしたが宿泊客が多過ぎるということもなく、1人1枚の布団に眠ることが出来ました。寝がけは暑く感じたので布団を掛けずに寝て、途中で掛けました。気兼ねすることなく快適でした。1室を女性だけにしてくれたのもうれしかったです。女性同士だと山の話は、体力的にもとても参考になります。

2日目

目が覚めると既に同室の女性二人の姿はありませんでした。他の部屋の人達も身支度を整えて出発の準備をしていました。日の出前だったのですが、空が明るくなり始めていました。外に出てこの蒼の時を眺めていたかったのですが、雷を避けるために一刻も早く出発するには身支度を整えるしかありませんでした。窓越しに明るくなっていく様子をチラチラ見ながら、もっと早く起きればよかったと思いました。
何とか支度を済ませてお弁当を受け取り小屋の外に出ると日の出の直前でした。早く歩き出したい気持ちもありましたが、美しい光景に足を進めることが出来なくなっていました。結局日の出の瞬間を待っていました。日の出を見届けて「さあ出発だ いま日が昇る~」と心の中で昔のアニメソングを歌いながら出発です。出発したものの刻々と変わる光景に見とれていてちっとも前に進めませんでした。

大天荘~常念小屋 2時間15分(休憩含む)


大天荘を出発すると風が西から強く吹いていました。寒さで耳が痛くなるほどでした。45分ほど歩くと山のおかげで風が和らいだためそこでお弁当を広げて朝食にしました。朝から美しい山並を見ながら食べられるなんて最高です。ちらし寿司弁当もとてもおいしかったです。お腹がいっぱいになると動きが悪くなるので半分だけ食べました。お弁当を食べた場所は東天井岳の下辺りだったのですが、そこからはお花畑が広がっていました。チングルマ、シナノキンバイ、ハクサンイチゲ、イワカガミ、ツガザクラ、シャクナゲなどが咲いていました。そこからしばらくするとハイマツの中を下って行きます。私の前を行く人の姿が最初は見えていたのですが、徐々にハイマツの中に埋もれてしまい見えなくなっていました。下は背の高いハイマツなのかな~と思ったのですが、そこに行くと理由がわかりました。登山道がえぐれていてハイマツの生えている地面のほうが高くなっていたのです。

ハイマツの下り坂が終わると横通岳への登り坂が始まります。大きな石と土、時々大きな石だけの道になります。登山道脇の砂礫にはコマクサが花をつけていました。登山道のすぐ近くまでコマクサがありうっかりすると傷つけてしまいそうなくらいでした。

横通岳の直下あたりだと思うのですが、特に見晴らしが良い場所がありました。穂高連峰・槍ヶ岳・常念岳も良く見えます。これから歩く道も見えました。常念はきつそうだなぁ。

そこからしばらく歩くと常念小屋が見えてきます。下り坂が始まります。常念小屋に到着する直前は樹林帯です。常念小屋から常念岳へは何度か登っているのですが、常念小屋から上に木が生えているのは意外に感じました。


常念小屋~常念岳山頂 1時間20分(小休憩含む)

常念小屋から蝶ヶ岳ヒュッテまでは水を補給する場所がないため常念小屋の自動販売機でミネラルウォーターを買いました。530ml1本400円でした。この時持っていた水分は全部で1.7リットルくらい。
7時10分頃水を買おうと思い常念小屋に入っていくと、年配の男性が「なでしこジャパンが優勝した」と言っていました。その言葉を聞いて元気を頂きました。
つらい常念への坂が続きます。今まで常念岳に登ったルートは一ノ沢からのルートでした。一ノ沢から常念小屋までの道のりよりも常念小屋から常念岳頂上までのほうがはるかに辛い思い出でした。常念岳は出来れば避けたい山なのですが、ここを通らずに蝶ヶ岳には行けません。誤解されてはいけないので詳しく書くと、花がなく大きな石がゴロゴロしている登山道を黙々と登っていくのが大変なのです。しかし常念岳の山頂は360度の大パノラマで眺望は最高です。ハシゴや鎖場があるわけでもないので是非皆さんに登っていただきたい山の一つです。
案の定出だしから足がなかなか進みません。ルートに丸印や矢印が描かれていたり、よく人が通る石は色が変わっているので注意して見れば間違えることはないと思います。しかし疲れて顔を上げることが出来ず、度々ルートを見失っていました。下ってくる人の動きに注意しながら余計な体力を遣わないようにルートを見定めるようにしました。
この日は前日のような晴天ではなく、曇り空で風もやや強く吹いていたので暑さはあまり感じていませんでした。それでも汗はかくので水分補給にも気をつけました。
今、地図を見直していて始めて気がつきました。私は今まで常念小屋から常念岳山頂までの登りのコースタイムが1時間かと思っていたのですが、小屋から三股方面への分岐までの登りが1時間でした。いつも小屋から頂上まで1時間20分くらいかかっていました。地図のコースタイムは相当健脚な人だと思っていたのですが、私の読み間違いだとわかって納得しました。確かに分岐までは1時間くらいです。この時は荷物が重くて1時間以上かかっていました。
苦しく長い登り道でした。下山の方とすれ違う時に声を掛けられても顔を上げられず「コンニチハ~ァ」と声を出すのも苦しい状況でした。常念岳の途中からの眺めも素晴らしいのですが、写真をほとんど撮っていませんでした。余計なエネルギーと時間を使わなかったせいか、気がつくとほぼいつもと同じペースで登っていました。

常念岳山頂~蝶槍 3時間40分

曇り空なのに穂高連峰や槍ヶ岳には雲がかからず、上高地も良く見えました。眺めを満喫しながら栄養と水分補給。15分ほど休憩しました。

常念岳を下り始めます。ここから先は今まで全く通ったことのない道です。以前常念岳から蝶ヶ岳方面を眺めて、稜線歩きが目茶目茶楽しそうで「幸せの小道」って感じがするな~と思っていました。いざ実行の時を迎えると、下ってまた登る繰り返しかぁ先は長いな~ちょっと辛いかな~とやや不安を感じていました。水が最後まで持ちますように!と祈るような気持ちでスタート。
常念岳の下りは大きな石がゴロゴロしていました。不思議だったのは、常念小屋から山頂までの石の色は茶色だったのにこちらは違うのです。白と黒の斑の岩でした。特に危険な所はありませんが、石の上を歩くのでバランスをとるのが大変でした。ストックは1本使いました。地面から鋭角に出ている岩が多く、岩の下に足先を入れてしまうと次の姿勢に移るときに脚をぶつけてしまうので、膝から下を岩に何回もぶつけてしまいました。「あの下に足を置いてはいけない」と思いながら見ているとなぜかそこに足を置いてしまうのです。膝下はアザだらけになり、すねはすりむけていました。
下りきったところ(標高約2470m)の鞍部で休憩。次の登りに備えてお弁当の残りを食べていると、歌を歌いながら下ってくる青年がいました。すごーく気持ちよく山を歩いているように見えました。
常念岳を過ぎると出会う人の数もぐっと減ります。燕岳周辺は異常なくらい多く、常念岳周辺が次に多かったです。人が少なくなるとかえって話がしやすくなることもあり、途中で休憩している人となでしこジャパン優勝の話や山小屋の混み具合など情報交換もできて面白かったです。
蝶槍(ちょうやり)までは標高2460mくらいから2590mくらいの間のアップダウンを繰り返します。
ハイマツ帯から樹林帯に入ったり、ニッコウキスゲなどのお花畑、小さな池、桜とウグイスの声で春かと思うようなところもありバラエティーに富んでいます。ナナカマドやダケカンバもあり、秋の紅葉も美しいのではないかと思いました。


鞍部の標高約2460mから約2664mの蝶槍までは50分かかりました。蝶ヶ岳に行くまでの長い上り坂です。特に危険な所はありませんが、道幅が狭く休憩できる広い場所もないので道の真ん中で休憩するような感じになってしまいます。通る人が少ないので問題はありませんでした。

蝶槍~蝶ヶ岳 50分

大好きな蝶槍に着いたらしたいことがありました。自家栽培のきゅうりに自家製信州味噌をつけて食べることです。夏山で食べるきゅうりは最高!!味噌の塩気がたまりません。ピッと元気になりました。
いつもはほとんど平らに感じる蝶槍・蝶ヶ岳間ですが、この日は“坂道だな~”と脚がボソボソと言っているように思えました。
13時40分蝶ヶ岳到着
思っていたよりも人影がなく、記念撮影したかったのですが撮影を頼む人もなく。


蝶ヶ岳ヒュッテ

途中パラパラと雨が降りましたが合羽を着るほどでもなく、雷の音も聞かずに無事小屋に着きました。13時47分着。これまでに取った水分の量は1.2リットルくらいでした。
3連休最終日のためか宿泊客は思ったよりも少なく、1区画を1人で使うことが出来ました。大天荘でもお隣同士だった女性と再びお隣。彼女は山のベテランの方で歩くのも速く、身支度・準備も手馴れていて朝5時には小屋を出発するように常に心がけていました。お薦めの山や装備のことなども教えていただきました。
男女別の更衣室があるので安心して着替えることが出来ます。寝る部屋で着替えると、よく天井に頭をぶつけて痛い思いをします。更衣室があると痛い思いもしませんし、朝の支度も更衣室で出来たので音やライトの灯りで周りの人に迷惑になることもありません。
夕食は午後5時30分から。
水は1リットル150円でセルフで容器に注ぎます。安くて助かります。
テレビで午後7時前の天気予報をチェックしたところ明日の予報は台風の影響で雨。今日も夕方から雨が降ったりやんだりで完全にガスがまいてしまい、景色も眺められなくなり夕焼けは無し。朝も日の出を拝めそうにありませんでした。昨夜は暑いくらいだったのに、今夜は寒く持って来たユニクロのダウンジャケットを着ました。いつもは山のダウンジャケットを持ち歩いているのですが、少しでも容積を減らしたかったので比べてみて今回はユニクロを持って来ました。
7時のニュースではなでしこジャパン優勝のニュースを見てみんなで盛り上がりました。山小屋でテレビを見てこんなに喜ぶのは初めてでした。

3日目

目覚めると雨音です。気温も低くストーブがついていました。
朝食は午前5時30分から。
朝食を済ませ6時過ぎに蝶ヶ岳ヒュッテを出ました。

蝶ヶ岳ヒュッテ~長塀山 45分

昨日蝶ヶ岳ヒュッテの近くで熊が目撃されていました。私は見なかったのですが、昼過ぎと夕方に目撃した人が何人かいました。長塀山に向かう登山道の近くだったので怖さを紛らすためと熊除けの鈴だけでは不安だったので、「エイサ ホイサ」と掛け声をかけてみたり、花を見るたびに「かわいい」「きれい」と言ったり、思いつく限りの歌を歌ったりしました。とにかく人の気配を出し続けました。
長塀山への道は池ありお花畑ありで楽しい道でした。雨が降っていなければもっとたくさん写真を撮ったのですが、熊のことも気になっていたのでストック2本を使ってチャッチャッと通り過ぎました。

寒いような気がして長袖Tシャツを2枚着ていたのですが、合羽を着ていると熱く、1枚脱ぎました。それでもまだ熱かったです。

長塀山~徳沢園 2時間20分

長塀山はガイドブックにも書かれていたのですが、木に囲まれていて展望はないようです。雨が降っていたので遠くの様子は全くわかりませんでした。
登山道は思っていたよりも歩きやすかったのですが、時々ルートがどれなのかわからなくなることがありました。いくつも道があるように見えました。多分どの道を通っても良いということだと思います。通ってはいけない道にはロープが張られていました。
長い下り坂だということは地図を見てわかっていました。いつまでも続く下り坂、特に笹の生えている光景がずっと続きます。同じような景色と合羽を着ている蒸し暑さで集中力が途切れた時に歩きにくい道に無意識に入ってしまうことがありました。最近登山道の整備をした様子で刈られた笹が落ちていました。そういう道を選ぶと比較的歩きやすい道でした。
写真の赤い木肌の木から間もなく下に徳沢園の屋根が見えてきます。あ~あともう少しだと思い少し元気になりました。
この道はほとんど人に会いませんでした。1組のカップルが追い越して行き、1人の男性が登って行きました。これから台風が近付いているのに登る人がいるなんて驚きました。

徳沢園~上高地バスターミナル 2時間(休憩除く)

徳沢園に着くと脳に糖分が足りなくなっているような気がしてソフトクリームを食べました。ものすごくおいしかったです。
連休明けの平日と雨降りでいつもよりも人が少なく静かな徳沢でした。
雨の日は植物が生き生きとしているように見えます。
雨が降っているのに景色も見え、川の水もきれいでした。

明神の嘉門次(かもんじ)小屋に行って岩魚の塩焼きを食べたいと前々から思っていました。せっかく上高地に来たのだから食べよう!と思い行ったのですが、1時間前にソフトクリームを食べたのでお腹が空いてなくてコーヒーだけ頂きました。いつか食べたい憧れの岩魚の塩焼きです。
明神からは右岸(川下に向かって右の岸)を歩きました。左岸とはまた趣の違うお気に入りの道です。左岸に比べると道幅が狭く、天気の良い日には気がつかなかったのですが、傘をさしている人とすれ違う時に気を遣いました。ぼーっと歩いていた時に傘の先端が首の近くに当たりました。それからちょっと怖いな~と思うようになり、話に夢中になっていたり、大きな傘を持っている人とすれ違う時にはぎりぎり端を歩くようにしたり止まって通り過ぎるのを待ったりしました。

上高地バスターミナル~穂高駅

バスに乗るには合羽は脱いでおかなければなりません。リュックのポケットにはペットボトルやストックなどを入れたままではいけないことになっていました。大きめのスーパー袋などを余分に持っておくと便利です。
新島々駅に向かうバスの中は暖房が入っていましたが、時々冷たい風も出ていました。汗で服が濡れていたので冷えてしまい辛かったです。
新島々駅から上高地線の電車に乗り松本駅へ。
松本駅でJR大糸線に乗り換えるのですが時間があったのでホームの立ち食いそばで温かいそばを食べました。店内は座れます。この日の松本の最高気温は25.4度でした。30度を越える日が続くと25度は寒いくらいに感じます。
大糸線の南豊科駅近辺の風景は田んぼが広がり絵に描いたような安曇野でした。私はほとんど電車に乗らないので穂高まで電車に乗るのは小学生の時以来でした。立ち食いそばや電車からの風景を眺めてすっかり旅行したような気分になりました。山歩きとはまた違う新鮮な楽しさでした。
穂高駅には15時40分ごろ着きました。

感想

今回は単独行動でした。単独行動はあまり良くないと思うのですが、2泊3日の行程を一人で過ごすことで自分の心の動きに気付くことができました。下界ではついついいろんなことを考えすぎてしまうのですが、歩くことに集中していると気分が悪くなるようなつまらないことは考えないものだと気がつきました。
言葉を交わさなくても時を共有することで何となく仲間意識を持ったことは単独だったから感じられたことだと思います。これは面白い体験でした。
大自然と素直に向き合うこともでき、「大好きだよ~」と木や花・山にたくさん伝えられたようにも思います。熊や猿には大好きだよと思えませんでしたが。
  【2011年7月17日~19日実施 登山者・記者:アルプスちえみ】